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大阪高等裁判所 昭和60年(く)125号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人作成の即時抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、「原決定は、勝部証言等本件請求の証拠の評価を誤り、重大な事実誤認を犯しており、再審を開始すべきであるのに、これを棄却したもので」ある、というのであり、右抗告申立書には、原決定の証拠の評価及び事実認定に、いかなる誤りがあるのかを具体的に指摘した記載がない。そこで、当裁判所においては、記録に編てつされている請求人作成の再審請求書、原審弁護人作成の再審請求事件に関する意見書及び同補充書、並びに検察官作成の意見書の各記載にかんがみ、申立の趣旨を忖度しつつ記録を検討してみたが、所論指摘の勝部隆三作成の証明書及び同人の原審における証人としての供述等が、旧刑事訴訟法四八五条所定の「無罪ヲ言渡スヘキ明確ナ証拠」に該当しないとした原判断に、所論のような誤りがあるとは認められない。論旨は、理由がない。

なお、前記即時抗告申立書の末尾には、前記文言に続けて、「なお、詳細は追つてさらに主張」する旨の記載があり、弁護人は、昭和六〇年九月七日提出の上申書により、当裁判所に対し、旧海軍軍法会議に基づく確定判決に対する再審請求であること等本件の特殊性にかんがみ、新事実や資料を整備し十分な主張を準備する必要があるので、理由補充書の提出期限を六か月先(昭和六一年二月末)とされたい旨の申入れをした。即時抗告申立書に前記の程度の簡単な理由の記載しかない場合に、主張の補充につき半年もの長期間の猶予を与えることは、元来異例の措置ではあるが、当裁判所としては、本件の特殊性にかんがみ、弁護人の右申入れを事実上了承し、その間抗告に対する判断を留保した。ところが、弁護人は、与えられた前記猶予期間の満了日である同年二月二八日に至り、「その後の数度にわたる厚生省への弁護士会照会等によつて、ようやく当時の特警班(総務部警務係)主任が広島県に存命している等の事実が判明し、当弁護人らに於いて現在接触を開始した段階であるので、今しばらく(本年八月末日限り)提出期限を猶予された」い旨の新たな上申書を提出するに至つた。しかし、本件の抗告申立理由の補充に、原決定後一年以上もの猶予期間を与えることは、弁護人の強調する本件の特殊性を考慮しても、抗告審に与えられた裁量権の行使としてやはり適当でないうえ、弁護人の主張するように、原審未提出の重要な新証拠を踏まえた補充書を提出するというのであれば、これらの新証拠をも付加した新たな再審請求につき、実質上第一審を省略して当審において直接判断を示すという結果にもなりかねず、抗告審の構造上も適当でないと判断されるので、補充書提出期限につき再度の猶予を求める弁護人の申入れには、応ずることができない。

よつて、旧刑事訴訟法四六六条一項により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

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